漠然とした不安

漠然とした不安・・・、誰でもそんな気分を味わった時があるはずだ。
そうした言葉に出来ない不安を和らげる、あるいは忘れる何かは、
一体どこからやってくるのだろう・・・。

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といったことを念頭にしたショートストーリーが・・・。

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彼は叫んだ。
見えている先の危険を知らせるために・・。
懸命に叫んだ。
しかし見えている先は、全く反応を示してくれない。
彼は意地になって大声で危険を叫んだ。
だがやはり見えている先は、反応をしめさない。
じっと見ているだけの彼は、だんだん悲しい気持ちになって
声も涙声になっていった。
その時、彼の肩をぽんと叩く者がいた。
彼は振り返った。
そこには人のよさそうな初老の男が立っていた。
「相手の耳が聞こえなければ、無理だな・・」
彼は弾かれたように、見えている先を注視した。
そして初老の方に向き直ると、頷いた。
「見る前に跳べ」
初老の男は、そう叫ぶと助走をつけ
障害になっていた溝を飛び越えた。
彼も慌ててそれに従った。
「やれば出来るじゃないか・・」
人のよさそうな初老の男が、嬉しそうに彼を見詰めた。
彼は幾分、恥ずかしい思いと、誇らしい気持ちが湧いてきた。

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初老の男は目元に優しさをたたえ、押し黙った彼に口を開いた。
「それで見つけられたのか?」
彼はその問いに、首を振って答えた。
「そうか・・、まぁ、あせらずだな」
初老の男は呟くように告げ、煙草をくゆらした。
「もっとも、それでも年はとってしまうがな」
彼はその言葉に、急に不安を覚えた。
するとどこからともなくニール・ヤングの
「ハートオブゴールド」のメロディーが
聞こえて来た・・。
Iwant to live i want to give
i have been a miner for a heart of gold

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http://jp.youtube.com/watch?v=KPxVuOomEyI

うなだれる彼を見ると、初老の男はつい余計なことを口走った。
「どうだ、人生でも、見に行くか?」
彼は男の顔をまじまじと見た。
「人生?」
初老の男は、深く頷いた。
そして立ち上がると、くたびれた車に乗り込む。
彼も従って助手席に・・。
車はとろとろ走り出した。
「こんな曲を知っているかい?」
初老の男は言いながら、カセットテープをデッキに押し込んだ。
流れ出る曲に合わせて、初老の男は歌いだした。
へたくそだった。
「知ってるか?」
間奏に入ると初老の男が彼に訊いた。
彼は頭を振った。
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http://jp.youtube.com/watch?v=hnFZsrs32Co
「今日を生きよう・・」
「今日を生きよう?」
「ああ、グラスルーツってバンドの・・、俺が高校・・、一年・・」
「何年前?」
「三十九年前・・」
「生まれてないよ・・」
「そうか・・」
再び歌が始まると初老の男は口ずさみ始めた。
曲が終わると再び巻き戻し、歌い始める。
それを何度も繰り返す初老の男に、彼はつい笑いが漏れた。
曲調はポップスの軽いのりの良い曲で、中でもサビの
「シャラララ、let for live today・・」
は耳に馴染んで、彼もつられて口ずさみ始めた。
やがてくたびれた車が、ゆっくりと止まる。
「さぁ、着いたぞ・・」
初老の男が告げる。
彼はそこを見て、全く男の行動が理解できなかった。

着いた所は、工場の端にあるコンクリートで出来た物
彼にはそれが何だか分からなかった。
それでも看板には「**汚水処理施設」と記されていて、
かなりの規模の水槽なのが分かった。
ニメートル近くの壁を初老の男は、階段を使っ昇っていった。
そして手招きをする。
彼もそこを昇り、茶色の水が勢い良く動き泡を吹く水槽を見た。
「さて、こっちだ」
初老の男は、水槽の間の二十センチ幅の仕切りを奥の方へと歩いていく。
彼も恐る恐るそれに続いた。
すると初老の男は、再び水槽の上から下へ降りていく。
彼もそれに従った。
コンクリと植木に挟まれた、じめじめした狭い空間に
クリアな小さい水槽が四つ並んでおいてある。
「ほれ、これが人生だ」
初老の男が、その水槽に近づき、彼に告げた。
「はぁ・・、そうですか」
彼は勢い良く細かい泡を空気中に飛散している水槽の側面を
見ながら、溜息をついた。
「不思議そうだな、あの茶色のは何だか分かるか?」
「いや、汚い色のついた水なら、分かるけど・・」
「そうだな、活動していれば汚いんだよ」
そういいながら、初老の男は電気配線に近づき、モーターらしき
物の近くのコンセントを抜いた。
すっと水槽の空気が止み、水面が静かになる。
「ほれ、そこに腰掛けて、まってろや」
二つ並んだ壊れかけた椅子を示す男に、彼は従い
片方にそっと掛けた。
男はずいずいと小さな屋根のところの扉を開け、
これまた小さい機械を動かし、手に缶コーヒーを携え、
彼の元へ近づいて来た。
そして缶コーヒーを黙って差し出し、自分も空いている方に
腰掛けた。

小屋らしき小さな屋根の方から、音楽が流れてくる。
テンポの良い曲だ。
「これなんても聴いたこと、ないだろうな」
男の言葉に、彼は頷いた。
「そうだよな、三十年だもの」
「あのぅ、生まれて・・」
彼は言いながら、缶コーヒーを開けた。
男は音楽に聞き入っているのか、口を開かなくなった。
彼も押し黙る。
しばらくそのままの状態が続いた。
「ほれ、休みを与えたから、あいつらも静まって水
が綺麗になったぞ」
俯いていた彼は、その言葉に面を上げた。
確かに茶色の塊が、下に沈み、上は透明な水だった。
「この水槽の中にも、五十種類は生物がいるのさ、餌を
食べ、うんこをし生活しているだよ、うんこっていっても
出すのは水だけどな」
「はあっ・・」
「水槽の半分程度は、あいつなのが分かるか?」
「ええ、そうですね」
「あれがどう変化するか、見てみたいか?」
「ええ、出来れば・・」
彼は興味がなかったが、男の問いに合わせた。
「それじゃ、また、三日後に会うか?」
「三日ですか?、それで人生・・」
「三日後だな・・」

彼は約束通り、三日後言われた場所で男を待った。
少し時間を過ぎて、草臥れた例の車で男はやってきた。
早速乗り込み、件の場所へとついていかれた。
男がにっこり微笑みながら、水槽を指差す。
その表情が彼には、幾分気持ち悪かった。
それでも言われたとおり、水槽を順に
覗き込んだ。
四つの水槽は、三日前と同じようにどれもぶくぶく泡を出し
どれも茶色い水が暴れていたが、注意深く見ると段段に
色が薄まり、四番目にいたっては透明感があった。
「この前と随分違いますね・・」
「そうだろな、餌をやってないからな」
「餌?」
「ああ、有機廃棄物だな、お前と俺みたいなさ」
男は言い終わると、にやりと笑い煙草に火をつけた。
「まぁ、廃棄物って言われれば、そうかも・・」
彼は自嘲気味に呟いた。
「その廃棄物を、ほれ、あの茶色い微生物群が分解してくれ
るって訳だ・・」
「じゃあ、あっちの綺麗なのは?」
「それは餌やらなければ、居なくなるさね」
「いなくなる?」
「そうさな、生存競争だな、より強いのが残りって社会だな」
「同じようなものなんだ・・」
「そういうこったな、どこだって競争はつき物さ」
男ははき捨てるように言った。
その頬を見ると、少し怒っているようだ。
「あのぅ、これで説法は?」
「何言ってんだよ、俺が教えを説く言われもないし
第一、見せてやるって言っただけで、後はてめぇの
頭で、何でも考えるんだよ」
「はっ、はい・・」
彼は怒気を含んだ声に、驚いてさっと姿勢がぴんとなった。
「ところでよ、お前、映画好きか?」
「はっ、はい、ええ、好きです・・」
「そうか、それじゃな、ちょっと待ってろ」
男は言い残し、小屋にずたずた歩いていった。
そして手に紙片を握って戻ってきた。
「おう、これな、見に行くか?」
言いながらずんと差し出す紙片を、彼は受け取った。
「あのぅ、戦争映画は好きじゃ・・」
紙片を見て彼が告げかけて、後を飲み込んだ。
男の表情に、意見は出来ない様が滲み出ていた。

彼は渋々合意し、男と映画を見に行くことにした。
いざ映画館に行って彼は、困窮した。
隣に座った男は、映画を見ながらおいおい泣き出し、
ついぞ映画が終わるまで、止むことはなかった。
映画の題名は「硫黄島からの手紙」である。
http://jp.youtube.com/watch?v=gyEhpb20ETo
彼は映画館近くの喫茶店へ、男を連れて行った。
車のところまでは距離があり、そのままでは周囲の
人に、彼がどう思われるか不安になったからである。
「あのぅ、戦争、行ってたんですか?」
「あっあん、なんで!」
「だって、あんなに大泣きするから・・」
男の声はでかく、彼は周囲に目を配りながら、
小声で話し掛ける。
「あのょう、戦後生まれだってっよ・・、うぅ・・」
治まっていたのが、ぶり返したように男が再び泣き出した。
親子ほど年の違う男を、彼は哀れみの表情で見詰めた。
ふと内心、違和感が芽生えた。
それがなんだか分からない。
確かに映画は、日本の劣勢をこれでもかと描き、
そんな中でも、劣勢でありながら戦いに「価値」を
見出す様は、見ていて感動した。
先人の犠牲の上にこそ、今がありそして自分達が
こうして生きていられる。
それにしても男の泣きぷりといったら、目も当てられない。
「あのぅ、珈琲が冷めますよ・・」
彼は黙ってその光景を見ていて、しばらくしてから
男に声を掛けた。
もうその時になると、周囲の目も気にならなくなった。
だけに落ち着いた気持ちで、男に声を掛けられた。
「あっ、うん、そうだな・・」
男は言われたことに、素直に従って一気に飲み干した。
それからだった、男は徐々に普段の表情に戻り、
映画の話から、身の上話まで披露した。
彼は頷きを繰り返し、黙って聞いていた。
不思議な縁、たまたまいつも行く場所で、
見えている人の危険を、こちら側で叫んでいたところに
現れた男は、躊躇せず身を張って知らせに行った。
それからの知り合いなだけである。
しかし初老の独り者だと思う男の言動に、
いつしか彼は惹かれ、これまで胸につかえていた
もやもやが霧散しているのに気付いた。
テーブルには、お冷のグラス以外なく、灰皿には
煙草の吸殻が溜まっている。
それでも男は熱弁をふるい、彼はどんどん心から
おかしさがこみ上げてきた。
「なんだよ、笑うようなことは話していないぞ」
「ええ、そうなんですが、何だか可笑しくて・・」
「たくぅ、さっきまで、迷惑そうな顔してやがって
他人の振りしてたろうが・・」
「はぁ、だっておじさん・・、いじめられてる
子供みたいに、泣くから」
「いいじゃねぇか、泣きたくなったからさ・・」
「そうだね・・、分かるよ」
彼は男の顔の皺をみながら、頷いた。
「シャラララ、let's live for today だね」
「おおそうだ、シャラララ、let's live for today・・」
二人はきせずして歌いだした。
迷惑そうな視線を感じながら・・。
http://jp.youtube.com/watch?v=7HIvJLY_nvg
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                        「作 見えざる声」
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見るまえに跳べ
株式会社ディスクユニオン
2008-08-22
岡林信康

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